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2009年11月30日月曜日

2009/11 マーケットレポート


皆様こんにちは。11月号をお届けします。


1.11月相場のレビュー

先月のレポートでは、「企業業績や景気回復の持続性には自信を持っており、またバリュエーションが低位であること、多くの海外投資家があきらめて日本株を売ってしまったことなどを踏まえると、今の株価については下値リスク以上にアップサイドが高い。但し、価値の顕在化を手助けする外人投資家の不在などの需給要因が時間軸を非常に読みにくいものとしており、また年末にかけてはファンダメンタルズ以外の思惑が市場を左右することも十分に想定出来るため、当面は先月お話ししたような『ボラティリティは高いも、底割れはしない』相場展開をイメージ。」とお話しました。実際に株価は一時上昇したものの、その後は下降トレンドで推移し前月末比-6.12%の続落で終了しました。この間、決算での好材料への反応は限定的でした。一方、為替が円高方向へ動き始めたこと、大幅希薄化を伴う増資発表が続いたこと、政府・日銀のデフレ宣言、ドバイ政府関連企業の債務不履行懸念の台頭などを受けて、市場は短期的なリスク要因に振り回されたと言えます。業種別では電力、陸運、通信などのディフェンシブセクターがアウトパフォームし、景気感応度の高いセクターが下落する典型的な弱気相場でした。

但し、株価が日経平均で9,000円レベルを割らなかったことは特筆すべきだと考えています。これまでバリュエーション面から「下値リスクが限定的」とお話してきましたが、この水準を割るということは昨年の後半から今年の年初に見られたような「バリュエーションが効かない需給相場、リスク回避相場」へと市場の本質が変化しているということだからです。



2.世界の中の日本

再びこのテーマについてお話させてください。筆者は、10月の欧州に引き続き、12月は米国の企業、顧客の訪問や、現地運用拠点での同僚とのミーティングを行っています。

一貫して聞かれた日本への認識は、

・国債の大量発行による消化懸念

・民主党の経済政策に対する不安

・人口減少による長期的な経済停滞

・輸出製品の競争力低下

など、もう全ての人が認識している内容でした。

一方で、一年が終わりつつあり、このまま日本株だけが下落し続けるのか不安視しており、短期的には日本株のアンダーウェイトを買い戻すような資金流入が始まっても良いタイミングかと感じました。

一方、約2週間かけて西海岸、東海岸の主要都市に滞在してきましたが、改めて日本と米国のGDP規模のアンバランスさが気になりました。Y90/$で考えると、日本のGDPは米国の約4割となり、ほぼ人口比に見合った水準(=一人当たりGDPが同額)ということになります。しかし、街を走る車の数、住宅の大きさ、お店での購買行動などを見ていると、明らかに米国の方がより大きい印象を受けます。背景には、まず為替水準が一時的に円高に振れすぎている事があげられるでしょう。また、日本が税収の2倍の財政支出を行うなどして、バブル崩壊後もGDPレベルを維持し続けてきたことも指摘できます。物価水準の違いにより、購買力平価ではやはり米国の方が大きいことも事実です。一方、米国のGDPも過剰な個人消費により、インフレートされた状況にあり、維持が難しい状況にあります。この様な歪みは短期的には維持が可能ですが、長期的には様々なプレッシャーを伴い、維持可能な方向に動くものと考えられます。まず、二国間経済の不均衡は為替によって調整されると考えますので、何れは為替が円安方向に戻ると考えています。その傍ら、米国の個人消費がさらに縮小することも考えておくべきでしょう。また、米国経済自体はデフレプレッシャーが強く、インフレ率の差による調整というイメージはなかなか描きづらいように思いました。



3.米国の消費動向について

筆者は、高校生時代の留学生としての1年間の滞在に始まって何度も米国を訪れていますが、今回は暫く間が空いて2年半ぶりの訪問となりました。この度の訪米では、小売店の安売り合戦の過熱が大変印象に残りました。12月は年間でも最も消費が盛り上がる時期ですが、クリスマス前から3割引、4割引は当たり前となっています。統計的には、前年よりも在庫レベルが低く、これだけのディスカウントをすれば売り切れるのでしょうが、計画通りのマージンを確保出来るのは難しいのではないかという印象を強く受けました。また、最終製品を米国に輸出している企業についても、価格圧力が強く、マージンの確保は苦戦すると見たほうが良いでしょう。また、今の状況は消費者の購買行動を変える可能性を持っており長期的にも懸念材料です。日本車のシェアが横ばいに留まる中、韓国車のシェアが急増している点などに、その片鱗が見て取れます。物質的にはある程度満たされており、かなりアグレッシブに価格訴求を行わないと需要が維持できない状況は日本でこの15年間ずっと経験してきていることです。また、途上国市場の堅調が続けば、投入コストは上昇圧力がかかるため、この方面からも企業マージンへのプレッシャーが懸念されます。



4.買ってはいけないこんな株

10月以降、株式市場では大型の時価発行増資が続いています。銀行セクターなど、規制変更の際に上手く立ち回れなかった結果、増資を已む無くされた金融業などは、まだ理解は出来ますが、極端に低い株価で必要性のない増資を大幅な希薄化を伴う形で行っている企業が増えており、理解に苦しみます。持ち合い解消の中、機関投資家や個人投資家に積極的にIRを行い、株主還元を歌ってきた企業の豹変には開いた口がふさがりません。一義的にはマネジメントのレベルの低さが要因ですが、証券会社の責任も問われるべきだと考えています。過去の様な儲け口がなくなった証券会社は、安易に増資を行うことにより簡単に多額の手数料収入を得ようとしています。

過去は幹事証券会社同士が強調して、市場へのインパクトが過大にならないように調整を行ったものですが、現在はその様なこともなされていません。長期的には、決してプラスにならないディールを無理やりやるということは、自分の庭に汚水をまいているようなものです。この様な無理なファイナンスを全うな機関投資家が引き受けるわけがなく、結果的にショートしたヘッジファンドの買戻しと個人投資家への「はめ込み」によって「消化」されています。ヘッジファンドが、希薄化による既存株主価値低下を顕在化させる役割を果たしているというのは、大変残念なことです。個人投資家へ引き受けさせるために証券会社は利益が乗っている金鉱株ファンドや新興国ファンドなどを売却させていることが、ファンドのフローなどを見ていると分かります。この様な身勝手な行動につき合わされないようにきちんと現状を認識すべきではないでしょうか。



5.市場見通し

以上を踏まえまして、今後の市場見通しについては次のように考えています。12月は例年年末にかけて出来高が細って行く為、需給に大きく振らされる展開となることが多く、今年も例外ではないと考えています。あまりアノマリーを信じていないファンドマネジャーでさえ、12月は一筋縄に行かないと考えている人が多く存在します。

例年は、月中までに形成されたトレンドが月末にかけて加速し、年明けに大きな揺り戻しが来ることが多いのですが、果たして今年の場合はどうなるでしょうか。12月初旬は、市場は大きく買い戻されたためこのまま行き過ぎた日本株売りが修正されて、年初来プラスゾーンで終わるかもしれないと期待させましたが、このところストレッチト経済圏の国債のダウングレードなどマイナス材料が出始めており、そう容易には進まない可能性も出てきました。私自身は、休むも相場という格言に習って、今年前半全く取れなかった休暇を消化すべく、あと1週間ほど働いて半月ほどお休みをする予定です。ポートフォリオについては、突出したリスクを落として来年に備えようと考えています。

大局観としては、先月に引き続き日本株はマイナス材料のみを織り込んだ状況にあり、そうなった理由については十分な正当性があるものの、ここから先はダウンサイドよりアップサイドの方が大きいと考えています。但し、日本株のパフォーマンスを決めるのは外部要因、特に新興国の経済と株式市場の過熱度であると引き続き考えており、敵失を待つ状況と言えるでしょう。



6.お勧め図書

「トレーダーの心理学」アリ・キエフ著

本書は主に短期的に市場から絶対利益を得る「トレーダー」向けに書かれたものですが、株式市場に拘わるあらゆる人にインプリケーションがあり、直訳調の文章につき合わされるのが苦痛ではあるものの、ぜひお勧めしたい一冊です。精神科医が、ケーススタディを通じて市場に携わるものがどれだけ「邪念」によってパフォーマンスを失っているか、自分自身の知力を極大化するためにはどのような事に注力すべきかを説いていきます。

ところで、皆様はどの様にして本を買われているでしょうか?私は、無料即日配達をしてくれるアマゾンで殆ど書籍は買っています。また、急がないものや、絶版になった本については、アマゾンのマーケットプレイスを利用しています。マーケットプレイスは、読み終えた本で保有する価値のないものを売る際にも非常に便利です。このシステムは、Amazon-出品者-購入者がWin-Winの関係になっていることが良く分かります。一方、既存の出版社の利益がプレッシャーを受けることになる訳ですが、その改善策として電子書籍化を勧めており、この企業のしたたかさや企業における長期ストラテジーの重要さ等々学ぶことが多いと感じています。



それでは、また来月。