2009年10月30日金曜日
2009/10 マーケットレポート
こんにちは。10月号をお届けします。
1.10月相場のレビュー
先月のレポートでは、「リーマンショック後の財政支出拡大により一息ついた世界経済ですが、7ヶ月連続の上昇を見せた後は短期的には下方リスクに対してセンシティブな状況。ただし、底割れするというイメージはなく、ボラティリティが高いものの、底値ではきちんとリバウンドするレンジ相場のイメージ。日本株についても基本観は同様ですが、政治が色々とノイズを立てることでしょう。従って、よりボラティリティが高くなると見ています。どんな銘柄でも上がったという局面から、銘柄の精査がより重要なフェーズに入ったともいえる。」というお話をしました。実際、米国市場はダウ平均で100ドルを超える上昇、下落が7日も起きました。また、主な新興国市場の月次リターンは久方ぶりにマイナスとなっています。日本でも、あわや日経平均が一時9,500円割れという展開もあり、まさに「下落リスクに対して非常にセンシティブな市場」だったといえるでしょう。ただし下落は長続きせず、きちんとリバウンドしてきたことも、先月の見通しどおりだったと考えています。株価が不安定な要因の一つには、暦年のリターンが意識されている事もあるでしょう。日本を除く先進国市場では、今年は2割前後のリターンとなっており、底値からは更に上昇しています。税金、年金の資産配分など様々な理由で期限までに売らなければならない資金があることが、地合いを悪化させています。
その様な中、企業の決算発表がピークを迎えています。特に輸出関連の製造業を中心に市場想定を上回る好決算が続いています。その結果、月次のセクター別リターンを見てみますと、鉄鋼、自動車、精密機器、ガラス、商社等がプラスとなっています。一方、内需セクターは、収益レベルこそ底堅いものの、期待値以下のものが多いというのが印象です。8月末頃から一旦内需株シフトが起きたものの、そのトレンドを継続させるほどの内容ではなかったということでしょうか。保険、石油、陸運、電力ガス、情報通信、紙パなど5%以上下落したセクターの大半が内需株でした。
2.二番底懸念
最近、日経新聞で「二番底」という文字がやたらと目に付くように思います。振り返れば、2008年初頭は景気が悪くなっていたにも拘わらず、良い話だけを取り上げ景気はまだまだ良いというキャンペーンを張っていました。個人消費を景気の主導役として焚き付けたい特集も多く目にしたと思います。その後リーマンブラザーズの破綻を契機に流石に大転換、「100年に一度の一大事」と騒ぎ立てたものの、株価は回復、夏場からは製造業も増産と「梯子をはずされ??」て「二番底キャンペーン」という流れです。これだけ見ると、どこかの新興宗教のようです。実際は、ファイナンス要因から仕入れゼロというような急激な在庫圧縮が起こったこと、消費者への金融も大幅にタイト化されたことなどが、生産活動が大きくマイナスとなった背景であり、その後金融市場の正常化と共にこの状況は解消されているというのは、これまで何度もご指摘してきた通りです。つまり、最終需要の回復がなくとも反動的に戻る部分が存在する訳です。メディア的には「エコポイントや自動車の環境減税は需要の先食いであり、反動減が必ずある」となるわけですが、経済全体から見た中でのこれらの政策効果は、その反動を恐れるほどそもそも大きくありません。また、この状況を受けて企業セクターでは度を越したコスト削減が行われています。ある自動車部品会社では、需要回復に確信を持てない為にパートタイムを含めて如何なる採用も禁止しています。しかし、生産自体は底から倍近くになっており、ピーク比2/3(66.6%)程度の人員構成にしたところ、85%程度の生産まで回復したため完全な人手不足となっています。その結果、経理担当社員の半数が応援生産に借り出されているという嘘の様な事が起きています。他にも、新人研修の一環として一ヶ月の予定で生産ラインに入った大卒文系社員が、そのまま半年間、ラインに置かれているという話も聞きました。政府補助の終了をリスクとして捕らえるのであれば、この様な度を越したコスト削減の正常化をアップサイドとして認識する必要があるでしょう。そして、後者のほうがGDPに対するインパクトとしては、より大きいことは言うまでもありません。確かに急落からの急回復のために回復率が非常に高く、回復モメンタムはいずれ緩やかになりますが、これは「リスク」というよりも「所与」であります。しかし、絶対額での生産のレベルはかなり低位にあり、生産の絶対レベルが再び年初のレベルを目指して底を見に行く確率はかなり低いと考えてよいでしょう。5階建てビルから落ちる心配をしているのですが、実際はまだ2階までしか登っていないというのが現状です。通常ありえないような底値を起点に、上がったものは必ず下がるというような議論を行うのは無理があります。
3.世界の中の日本
金融市場の回復に伴って久方ぶりに不要不急の海外出張も解禁となり、欧州に3週間ほど行って来ました。同僚のファンドマネジャーや顧客、社内のマーケティング担当者、かつての同僚、かつての担当セールスマン等色々な人と話をしましたが、「日本」という国自体が沈没してしまったかの様な関心の低さには改めて唖然としてしまいまい、先月と同じテーマですがもう一度取り上げようと思った次第です。既に年初来世界の中で突出した株価の低迷となっており、関心の低さは改めてネガティブな材料というよりは、事実確認でしかないのですが、やはり日本株の運用を生業としている身としては、存在価値が非常に低くなってしまった事実を突きつけられ、寂しい思いをしました。現実問題として日本株だけを運用していてあと何年家族を養えるのかという問題を突きつけられました。
しかし、このことは株式が真っ先に織り込むために私が先行して感じているだけであり、ものの数年後に企業の最先端で働いている人々が同様の気持ちを持つであろう事に間違いはありません。おかしな「ものづくり大国」キャンペーンに毒され、または「目の前の危機」から目をそらしている間に、製造業の中でも比較優位性を失ったもの、保てなくなりつつある企業が数多くあります。普通に企業に就職しても、もはや一流の仕事はできない、世界トップの仕事は出来ないという事実は、日本人の生き方にどのような影響を与えるのでしょうか?
個人の問題はさておき今回の出張を通して一つ痛感したのは、日本の株式市場の復活も没落もグローバル市場の中では外部要因でしか決まらないであろうということです。過去(と言ってもほんの数年前までは)は、G7とその他の国ではバリュエーション上のリスクプレミアムに明確に格差がありました。しかし、特にこの数年で新たな投資先をエマージング市場に求めた結果、リスクプレミアムの対価を成長に求めるという形でこれが収斂しつつあります。中国市場は既にそうなりつつありますが、この流れは、新興国市場が明らかに割高になるまで続くのではないでしょうか。ごく短期的にはあまりにネガティブな日本株への見方は、そのパフォーマンス格差からゆり戻しが起きてもおかしくない状況ではありますが、中長期では新興国のバリュエーションがバブルになるまでは日本株がトレンドを持って他国に先駆けてアウトパフォームすることはないように思います。
4.政権交代
民主党政権が本格始動しましたが、市場ではその政策の不透明感や予算規模、国債発行見込み額からリスクサイドがより大きくハイライトされた形と待っています。残念ながら、現政権はIRに完全に失敗しています。財源が限られている中、株式市場が政策不透明感を抱くということは、ただでさえ難しいファンディングをより厳しいものとするだけです。「コンクリートから人へ」のGDPと国家財政への具体的なインプリケーションを、政府はしっかりコミュニケートすべきでしょう。さもなければ、莫大な国債発行高による更なる財政悪化など、メディアや投機家に絶好の付け入る隙を与えてしまうことでしょう。
いやもしかしたら、もう既に問題を解決するには、症状は末期的で手の打ちようがないのかも知れません。が、今は敢えてこの話には目をつぶりたいと思います。
5.市場見通し
以上をまとめますと、私は企業業績や景気回復の持続性には自信を持っており、またバリュエーションが低位であること、多くの海外投資家があきらめて日本株を売ってしまったことなどを踏まえると、今の株価については下値リスク以上にアップサイドが高いと感じています。但し、価値の顕在化を手助けする外人投資家の不在は価値が顕在化されるまでの時間軸を非常に読みにくいものとしていると考えていますし、年末にかけてはファンダメンタルズ以外の思惑が市場を左右することも十分に想定出来、当面は先月お話ししたような「ボラティリティは高いも、底割れはしない」相場展開をイメージしています。その中で、米国をはじめとした先進国の年末商戦は注目です。もともと前年比マイナスの予想の中、ぎりぎりの在庫で乗り切ろうというのが、各リテーラーの戦略です。このような中、仮に前年比並の売り上げが確保できた場合には一気に在庫不足を招き、通常季節的に弱い四半期である1-3月の生産も力強さが維持されるでしょう。その過程では「二番底懸念」が払しょくされ、バリュエーションは2011年3月期をみるようになるため、株価はボックス圏を上放れする展開となるでしょう。
6.追記
今月のおすすめ図書は、「20世紀から何を学ぶか(上・下) 寺島実郎著
政権交代で外交戦略もリセットされつつありますが、日本と諸外国の関係が、今の日本にどのように影響したのか非常によくわかる読み物です。ぜひ、ご一読を。
それではまた、来月まで。
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