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2010年3月31日水曜日

2010/3 マーケットレポート


1.年初からの株式市場

早速ですが、ここまでの流れを復習してみましょう。11月までの相場は過度に悲観的になっており、外国人買い主導で反転のエネルギーがたまっているというお話をしました。それが、12月は一気に爆発したものの、1月、2月はその反動で中だるみ、材料不足の中、出遅れのバリュー株(PBRが安い銘柄群)がしつこく物色される展開となりました。業績の上方修正が見えているにも拘わらず、大型の好業績銘柄が買われないという極めて不自然な状況にあったわけですが、漸く3月から相場は反転しました。これまで、あまりにリスクファクターにセンシティブになり、業績の想定以上の回復をまったく織り込んでない状況にあったものが、日銀の追加的金融緩和、円安、米国雇用統計、ギリシャ問題の収束などをきっかけに一気に織り込みに行った状況です。セクター別では、1月、2月は昨年後半の相場回復の過程で出遅れた銘柄群が上位の中心でしたが、3月は景気感応度が高い輸出関連銘柄が大きく上昇しています。



2.ファンダメンタルズと一般常識の乖離

「100年に一度」、「二番底懸念」などメディアが騒ぎすぎたために、一般的な感覚として景気はリーマンショック前には戻らない長く暗い時代に入ったと思われているのではないでしょうか。

今の株式市場を理解する上では、「実態はそこまで悪くない。」ということをまず認識する必要があります。昨年前半までの異常な在庫調整と金融調整は短期間で終了し、世界各国で需要の正常化が進んでいます。また、新興国や資源輸出国では再び需要は急拡大しています。7割から8割の需要を前提に一年前にリストラを行ったが、需要は危機前の85%-90%まで回復。ただ、人を増やすと「二番底」が怖いから既存の人員でなんとかやりくりしているというのが多くの製造業の姿です。一方、内需関連は雇用の戻りが鈍く、賃金もカットされたままですので勢い値下げ競争となっており、「政府がデフレ宣言を行う」という、意味・目的のない事態にまで引き起こしている始末です。

今後は、一般のレベルでもこの認識ギャップが縮まっていくものと思われます。きっかけは、やはり「現ナマ」でしょうか。今年の製造業の夏のボーナスは前年比大きく上昇します。残業も増えています。加えて子供手当ての支給も始まり久々に消費が上向きだし、「あれ?景気は戻りだしたの?」という認識になるのではないでしょうか。そこから、景気の大きな拡大局面には入らないと思いますが、平時に戻ったことが強く意識されることと思います。

なお、企業業績は固定費削減を大きく進めた結果、稼動が9割を超えてくると過去最高益が意識され始めることでしょう。これは、非常に重要なことです。当面の目線は、リーマンショック前の株価で、外需系=>内需系の順にこれを回復していくと考えています。例外はどこかというのは、大切な視点です。そして、その次のステップとして外需系は株価の前回サイクル高値更新が意識し始められるでしょう。これまた、その順番はどうなるかというのが大切なポイントです。

リスクとしては、資源価格の上昇です。鉄鋼原料、石油など様々な資源価格が上昇に転じており、価格転嫁が大きな課題です。前回は好景気を皆が実感する中での上昇でしたので、ある程度の価格転嫁が可能でしたが、今回は非常に微妙なタイミングといえます。安易な安売りに走ることなく、価格対価値のバランスをコントロールしてきたかどうかが試されます。



3.日本は本当にダメなのか

私は2000年代前半の海外駐在時代に色々な国々の様々な企業のマネジメントと面談を行い、日本のマネジメントクオリティが突出して低いことに衝撃を受けました。場当たり的な行動、いい加減なプロジェクト管理、基礎的な経済知識の欠如など、劣っている点を挙げるときりがありません。しかし、当時、当の企業経営者にはそのようなリスク感覚はなく、好景気を心底謳歌している状況でした。しかし、その後、景気後退局面を経て、このマネジメントの差が大きく企業業績、そして株価に現れ、みなが強く認識するようになったと考えています。

余談ですが、私が「一般的に認識された」と捕らえる最も指標にしている雑誌が、「エコノミスト」誌です。この雑誌は、経営基盤が弱い毎日新聞が発行しているため、次の特徴があります。

・ 部数をクリアするために、特集は皆が関心を持っているテーマであること

・ 自社で記事を書くだけの人員を確保できないために、執筆は外部委託によること

・ 他の週間経済誌と記事がダブらないこと、数週間内に特集されていないこと

この結果、特集が勢い後追いになっています。そして、先週の特集が台頭する韓国、完敗する日本でした。 

繰り返しになりますが、日本企業のマネジメントが劣っていることは事実。しかし、それが株安の要因となったフェーズは昨年で一旦終了したと思っています。この問題を顕在化させたのは、内外の成長率格差、為替動向、金利環境の差などでありましたが、昨年1年の株価の大きな出遅れで、日本ダメ論は一端織り込まれたと言えるでしょう。今年は、新興国の成長にインフレがキャッチアップするタイミングで、株式にとっては難しい局面です。一方、マイルドなインフレは日本経済にとっては新興国ほどネガティブではありません。年初来、日本株のパフォーマンスは良好で、現在は再評価の過程にあるといえるでしょう。外国人買いが久しぶりに復活してきましたが、主要なサーベイを見るにまだまだ保有比率が低いと思われ、引き続き再評価が続くことと予想しています。

ただし、これは短期的な揺り戻しです。規制緩和、そして雇用の流動化が大きく進まない間は、長期的な低迷は避けられないでしょう。この辺のことは、また別の機会にお話できればと思います。



4.中国雑感

2月に中国に出張する機会を得ました。沿岸部と内陸部を見て回り、改めて現状を認識することができました。中国は日本の80年代後半ではなく、所得倍増計画が推し進められた60年代の状況にあると思います。投資効果の高いプロジェクトがまだ多くあり、そこに投資を集中することで様々な所に波及効果が及んでいます。沿岸部の不動産セクターなどはバブルの様相を呈していますが、成長を牽引している内陸部のプロジェクトはそうとは言えず、多面的に捕らえる必要があるようです。かつての日本がそうであったように、公的資本形成の投資効果が高い間は、資本さえあれば、ある一定のレベルまでは高い成長率を達成できます。現在の資本主義システムは常に成長を必要とするという事も忘れてはいけません。金利、配当を支払うだけの再投資機会があることを前提に現在のシステムは出来ており、中国を初めとした新興国の成長は、格好の投資機会としてファイナンスされ続けることでしょう。さもなければ、日本のようにデフレを引き起こすことなり、金融システムに大きな悪影響を及ぼします。世界経済の規模が大きくなった結果、再投資される資金も大きくなり、このことが新興国の成長率を高め成長可能な期間を短くしていると考えています。中国は、ある程度のボラティリティはあるものの、もう3、4年は高成長が続くと考えています。



5.今後の市場見通し

以上を踏まえた、今後の株式市場の見通しは次の通りです。市場想定を上回る企業業績が見込まれており、ファンダメンタルズ面での力強い下支えになると考えています。決算発表が一巡する5月頃までは比較的安心で、循環物色されつつ相場全体が底上げされることでしょう。また、新年度については8割程度の増益が見込まれ、5割成長程度を見ている市場のコンセンサスとの乖離が非常に大きい状況といえます。期を通して、実際の企業業績が上方修正されることにより、株価の下支えとなることでしょう。

但し、選挙を控えた夏場にかけては一端、中だるみする事は十分に考えられます。不安定な政治状況は、特に海外資金が利益確定をする格好の理由となります。また、高速道路の値上げや、自動車購入減税の打ち切りなどが行われる一方、農家の所得保障、子供手当てや公共事業の一部再開/増額など、これまでの12ヶ月とは違った主体へと財政支出がシフトすることから、プラスマイナス入り混じった景況感が伝えられ、市場の混乱要因になり得ます。その後、選挙結果がどうであれ、ひとまず見通しが立つような状況になれば、中間決算で企業収益が堅調である認識が広まり、再びしっかりした相場展開へというのが今の基本的な見通しです。



5.お勧め図書

「ウェブ時代の5つの定理」 梅田望夫著

著者は、色々な雑誌などにも寄稿しており名前をご存知の方も多いと思います。この本をはじめ、シリコンバレー在住の著者の見る新しい世界観というのは大変新鮮かつ示唆に富んでおり、また勇気づけられます。幾つか著書を手にとって見られてはいかがでしょうか。

余談ですが、私はこの4月にソニーエリクソンから出たスマートフォンを使い始めましたが、その可能性の広がりにはただ驚くばかりです。全くストレスを感じることなく、必要なときにすぐネットに接続できるということが、これだけ生活を変えるとは思いませんでした。デジカメ、薄型テレビ、ブルーレイレコーダーなどなど近年の家電製品は便利で楽しくはありますが、「生活を変える」というほどの衝撃度はありません。このスマートフォンというのは、そういう意味においてイノベーションではないでしょうか。今後の展開が楽しみです。

      


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