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2010年7月31日土曜日

マーケットレポート 7月号

1.7月の株式相場

5月のレポートで、「慎重なスタンスを取っていること。当面、相場は一喜一憂が続き、4月の高値を再トライするほどの勢いはなく、良くて下落幅の半値戻し。但し、再び景気後退(GDPのマイナス成長転落)する程の悪化はさけられ、企業収益も現在のコンセンサス程度で推移する見込み。よって、徐々にショックは緩和され、秋ごろには再び強気相場に戻る。この様な相場環境では、ボックス圏だという認識を強く持ち、市場動向によって判断を狂わさないことが大切。数日間で大きく上がり、強気になって買うと、良いリターンは得られない。」とお話しました。

7月の市場は、引き続きマクロ懸念は相場の頭を抑えましたが、欧州のストレステストが取り敢えずは終了するなどの進展もありました。その結果、インデックスこそ横這い圏でしたが、数ヶ月ぶりにディフェンシブセクターがアンダーパフォームした一方、海運など景気感応度の高いセクターがアウトパフォームするなど、下がりっぱなしだった市場のリスク選好度にはそれなりの変化があった月だと言えるでしょう。

2.決算

第1四半期の決算が次々とリリースされています。もともとの会社予想が非常にコンサバであったため、多くの企業が上方修正を発表しています。一方、下方修正を出す企業は非常に限定的です。コンセンサスと比べても、足元の企業業績は良好といえます。売上面では、新興国向けの需要の強さが顕著で、この地域へのエクスポージャーの高い企業の好決算につながっています。また、期中から急速に円高が進んだことにより、「危機レベル」から「平常レベル」へと移行する予定であった経費管理が、実際は非常に厳しく運営されており、特に多くの輸出産業の好決算へ繋がっています。

先行きも決して悲観的ではありません。15年前の円高であれば、Y90を割り込む円高だと多くの企業が赤字になりました。今回はY85でもトータルでは黒字を確保できそうです。過去と比べると、現地生産の比率が上昇したこと、日本の固定費が減ったこと、生産拠点の拡大に伴いロイヤリティ収入や配当と言った貿易以外の収入が増えたことがその要因といえます。従って、Y85の円高ではPERが割高になりすぎて評価軸になり得ず、相場が底抜けするという状況は回避できそうです。

一方で、円高により緊縮モードが続いているということは、輸出拡大に端を発する内需の回復というパスが厳しくなったということも意味します。給与所得の回復はこれ以上見込みにくくなっており、リーマンショック前の水準を回復することは難しいでしょう。また、設備稼働率も頭打ちで、工作機械メーカーの株価を見るとわかるように、設備投資が拡大する見込みも非常に低くなっています。


3.今後の相場動向
相場の大局観は先月と大きく変わっておらず、そのまま先月分を復唱しても好いほどです。即ち、
・ 現在の景気はソフトパッチ(景気拡大期の一時的な踊り場)であり、景気後退ではない。
・ 在庫循環から来る急激な生産拡大が終わり、巡航速度を目指してスローダウンしている。
・ 目先は、7月の安値から10%前後のリバウンドが望めますが、当面はボックス圏相場であり深追いは禁物。
・ もうひと水準の上昇のためには、やはりソフトパッチの終焉=短期的な在庫循環の好転が必要となります。来年の1-3月期がそのタイミングと思われることから、そこから半年程度早いこの秋口ごろから株式市場は織り込みに入るであろう。
ということです。

また、信用取引の取り組みを見てみますと、4月の高値から勢い「買い残」が積み上がっており、下落相場で多くの投資家が買いを入れたことが見て取れます。暫くは、多少市場が上昇すると、「ヤレヤレの売り」が出てくると思われます。この様な地合いが改善するには、経験的にはやはり半年はかかっており、この点からも10月頃のセンチメントの改善を示唆しているといえます。

4.アジア株と日本株
筆者はこの8月で日本株の運用に携わって丸12年になります。色々な局面があり、マーケットは大きく上下しましたが、結局の所インデックスはマイナスリターンとなっています。資産運用の世界は 預かり資産 *(掛け) フィーですので、インデックスのレベルが、業界のパイを規定します。振り返ってみると一緒に働いた人が約40名いましたが、まだ運用関連の仕事をしている人は10名未満です。マイナスリターンの中、インデックスファンドへのシフトも進み、日本のアクティブ運用業界はかなり縮小してしまいました。一方、インデックスレベルだけでなく、ボラティリティでも稼ぐことが出来る証券会社はそこそこの業容を維持しているのは、投資家にとっては非常に皮肉なことです。

そんななか、かつての日本株マネジャーであった外国人の同僚・元同僚はアジア・太平洋地域の株式運用という所にこの数年で一気に立ち居地をシフトさせました。その結果、AsiaPacificで魅力的な企業でないとお金が入って来ない状況となっています。例えば、鉱山株ですと豪州の企業が買われ、日本の商社へは純投資どころかアビトラージの投資すら入って来ません。自動車株はかなり割安と思いますが、韓国企業ほど成長がなく無視されている状況です。一方、建設・鉱山機械株などは米国にこそ競合はありますが、アジアでは数が少なく、日本メーカーの優位性が際立っているため、バリュエーションは高いにもかかわらず買われています。日用品でも、オムツメーカーの株価は高いけど、ビールメーカーの株価は常に割安な理由の一つには、この様な背景があります。

筆者も、生き残りのために必然的にアジア株を見ざるを得なくなってきているのですが、現実に日本株での投資アイディアをより純粋にベットできる企業が多くあることに驚かされます。また、マネジメント能力でも日本企業より秀でている会社が多くあります。個人投資家のレベルでも、投資をしたい企業のAsiaでの競合はどこで、どの様なバリュエーションで取引されているのかを知るのは非常に重要な視点となっているといえるでしょう。

5.今月のお勧め図書
「ユニクロ症候群」小島健輔著
リーテールコンサルタントである著者の視点は非常に鋭く、私は良く氏のブログを見ています。
ユニクロ礼賛本が多くありますが、ユニクロ反映の背景にある社会の構造変化に光を当てており、決して喜べる状況ではないはないことを指摘しています。ユニクロというよりは、消費社会全般について色々と示唆があり、一読をお勧めします。





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