病床の母を何度も見舞ううちに、彼女は服に並々ならぬ関心があることが分かって来た。「その服、似合うね。」とか、「いつ買ったと?」とか色々と聞いてくる。僕自身は、切るものはかなり無頓着。楽なので、気に入ったブランドのモノをずっと買い続けているのだが、そんな母との交流を通じて、もう少し興味を持ってみようと思っている次第。
そんな時に出会ったのが、この本。アパレル業界のダイナミクスが実に平易かつ面白く書かれている。へ~、なるほど~と感心することしきりだ。魑魅魍魎のイメージだったのに、ここまで分かり易く言語化されると面白い。また、含蓄あるフレーズも沢山出てきて刺激的であった。
●P59「90年代以降、服はますますシンプルになり、服そのものに人々が熱狂するような現象は少なくなりました。服だけではありません。車だってそうです。その半面、人々はドラマを求めているように感じます。服を着ることによってどんな気持ちの変化が生まれるのか。車を生活に取り入れることによってどれだけ生活が楽しくなるのか。ものへの執着がなくなった消費者の感情を刺激して、総合的に生活を演出することも、デザイナーの仕事の一つになりつつあります。」=>正に、車も一緒だ。SUBARUがなぜ、ここまで売れてるか、凄くシンプルに分かった。
●P88「素材にこだわり、ディテールにこだわり、新しい組み合わせで何かを生み出すのは日本人の得意とするところです。その一方で、弱いところは、自ら創造したものに対して、商品の価値を伝える気の利いた言葉を見つけられないところです。」
●P90「日本の産地は今、元気がありません。日本はもっと早くに高級品の生産基地としてポジションを確立すべきだったと思います。」
●P113「オフィスにはオーナーの美学がつまっています。」「オフィスとはいわば、ものが生まれる、胎内のようなものです。」
●P134からの1章:「かわいい」だけでいいのか?がこの本の圧巻だ。実に鋭い、日本と海外の違いが指摘されている。
「かわいければいいんですよ、滝沢さん。お客さまは服のうんちくなんか聞きたくないんだから。」
「日本市場は世界でもまれな特殊な市場。欧米に行くと逆です。だから、日本市場向けだけの考え方では世界では闘えません。」
「朝から晩まで同じ服で過ごせる日本は、便利で気楽ではありますが、一度欧米で生活したり教育を受けたりした経験がある人は、日本はファッションを楽しむ機会が少ない、と気づきます。」
「(海外では)大人に見られることは憧れ。対して、いつまでも少女っぽく見せたい日本人女性は、ちょっと海外の女性とは考えが違うようです。理由は、よくいわれるように親が子離れできず、子供を独立させないことにあるのかもしれません。いつまでも、水玉や・・・・・・・・欧米の親は食事時にはふさわしい服装で臨ませます。・・・・・・・社会性をはぐくみ、早く一人前の大人として扱われるように服装を整えさせるのです。」
「幼稚さを好む日本人男性の心理も影響しているのではないでしょうか。女性は、成長した自分を男の人が受け入れてくれないために、できるだけ若く見せよう、かわいく見せようと思っているのでは。」
●P152「どんなに不景気であっても、お客さまの立場に立てば、商品には両極が必要だということが分かります。ベーシックとサプライズです。」
●P155「不景気からの打開策は、新鮮な商品と飽きさせない売り場で、消費者の気持ちを揺さぶることしかないのではないか、と僕は思います。」
●P158「高度成長期の日本人の発言はとても強かったと思うのですが、現代では個性を出しにくくなっているようです。もの作りにおいて、最も重要なのは独特の突き抜けた発想です。」
●P176「(日本では)年齢で経験を途絶えさせてしまう。日本では経験が価値になりにくい風潮があります。」
そして、締めのパラグラフの言葉が、これまた素晴らしい。
●P177「あらゆることの原点は、美学を持っているかどうかに尽きます。優れた経営者は、美学を用いることで人の気持ちを動かせることを知っています。・・・・・・・・美しいか、美しくないか。売れるか、売れないか。経営者もクリエーターも、この二つの視点を持ち合わせなければならないのです。」
0 件のコメント:
コメントを投稿